本日は少々硬派に。



Harvard Business Reviewの少し古い記事を読みました。

Branscomb, L. M. (1992). Does AmericaNeed a Technology Policy?
Harvard Business Review, 70, 24-31.



私は科学技術政策の専門家でもMOTの専門家でもありませんが、1992年の記事となればある意味「当事者」ではあるので、大変興味深く拝読し、ここにまとめておこうと思った次第です。


1.Branscombについて

Lewis M. Branscombは、アメリカの科学技術政策アドバイザーとして活躍した人物で、NISTの前身のNational Bureau of Standards(NBS)の所長(所長は大統領指名、当時はニクソン)も務めたことがあります。

Branscombは「ダーウィンの海」の提唱者でもあり、日本のMOT系の報告書でもちょくちょくお名前を拝見しておりました。といいつつ、私自身は彼の講演も著作も一切読んだことがなかったので、今回この刺激的なタイトルの記事を読もうと思った次第です。


2.アメリカにおける科学技術政策に関する議論

Branscombは、まず「科学技術政策」に関する二つの対立の構図を提示しています。

米国企業が戦略的ハイテク分野のマーケットシェアを着実に失っているこの時期に、”critical technologies”のR&Dへの政府支援は必要不可欠である。 

自国内(の都合)で「成功しそうなものを選ぶ」、あるいは技術の成果を一方的に政府がコントロールするような取り組みは、確実に破滅する。 
 
前者は国家資本主義(国家が競争に介入)、後者はグローバル資本主義(完全な自由競争、新自由主義)ですね。

ちなみに1992年は日本はバブル直前のピークで、アメリカは半導体などの主力産業が日本にシェアを奪われて危機的状況でした。しかし、それを守るべくcritical technologiesに支援をしても、そのお金は結局「選挙区形成に使われる」と、如何にも「〇〇村の既得権」のような問題点を指摘。

なかなかのツワモノ。

そして、Branscombは次のように、

(この2つの意見の対立に対して)本当の問題は、米国が技術政策を持つべきか否かではなく、どのような政策あるいはプログラムがこの新しい競争環境において意味があるかである。

・・・って、タイトルは「アメリカに(科学)技術政策は必要か?」なのに、いきなり「政策ありき」な出落ちモード

でも、ツッコミは置いといてなかなか期待を持たせる展開でございます。


3.当時のアメリカと日本の関係

しかし、現在の止まることのないイノベーションが起きるような競争環境においては、軍事だろうが民間だろうが単に新しい技術を創造するだけだったり、あるいは大学の基礎研究に予算をつけたりはもはや十分ではない。どちらも今日のハイテク市場で競争しなければならない商業イノベーションの早いペースから簡単にはじき出されてしまう。日本の競合企業が、米国で発明されたVCRのような技術革新を商業化することに成功して勝利したようなコンシューマエレクトロニクスについて考えてみよう。競争の成功は、どこで生み出されたなんか気にせず、新しいイノベーションを素早く吸収・応用することのできるそれら企業にどんどん与えられるだろう。

要するに、「アメリカが新しいものを開発しても、すぐ日本にシェアを持っていかれちゃう」という状況だということ。

これって、(日本が新しいものを開発してるかはともかく)今の日本と中国・韓国・台湾の関係と似てますよね。

そして当時、アメリカは「市場のスピードが速い」と感じていたわけです。これも、今日本が市場に感じていることと似ています。

さて、1992年のアメリカと日本の関係をどう考え、どういう取組をし、どういう結果になったか・・・

゚.:*。・ヮクヮク(o・ω・o)ヮクヮク・。*:.゚


4.Branscombの基本的な考え方

その状況に対し、Branscombは

政府は特定のビジネスニーズに合ったよいアイディアの商業化を加速するように産業の広がりの中にある複数の企業を支援することでイノベーティブなアイディアの"需要"を刺激すべきである。そのためには、企業間あるいは企業と大学と政府研究機関の間の協業を奨励し、あらゆるイノベーションの基盤となるような技術的なインフラに投資し、全ての企業がより生産的になるために必要なツールや技術の開発を援助すればよい。

と述べてます。「基礎研究」でなく、「基盤技術」ということでしょう。

これは3Mの"Technology Platform" -新規事業創生のベースには自分たちのコア技術がプラットフォームとして機能する- という考え方と同じだと思います。

なんか、自分の中の思い出が蘇ってくるようです。

そして、今の日本の技術開発戦略のベースにBranscombの考え方が強く影響しているのが伺えます。






そして記事はこの後、アメリカが如何に「クリンチ川高速増殖炉開発」や「超音速輸送機開発」といった当時の"Critical Technologies"(産業上重要度・緊急度の高い必須技術)に投資をして失敗したか、という話題になり(国家資本主義型の科学技術政策批判)、ついでいよいよ具体的政策の話へと進むわけです・・・が、一気にやっちゃうのはもったいないので、中編に続かせていただきます。(つづく)