既に私のFacebookでもまとめましたが、こちらの方がもう少し長文に耐えられそうなので、こちらでもう少ししっかりまとめておきます。


アメリカ疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)が、二重マスクがコロナ予防に効果があるという実験を報告したと、日本だけでなくアメリカのメディアでも一斉に報じています。


【毎日新聞:二重マスク、米の感染予防ガイドラインで推奨「リスク大幅低減」 】
https://mainichi.jp/articles/20210211/k00/00m/030/155000c


この報道の元となるCDCのレポートはこちらです。


【CDC: Maximizing Fit for Cloth and Medical Procedure Masks to Improve Performance and Reduce SARS-CoV-2 Transmission and Exposure, 2021】
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7007e1.htm



最新の科学的な実験結果について、その効用を議論することは専門家でも難しく、ましてやそれを社会全体にプラスになるように上手に伝えることはさらに難しいです。なので、正しい/正しくないということではなく、少し国内の報じられ方(アメリカと似ているので、日本がダメということではない)に気になる点があったので、言論の自由の範囲で見解を述べたいと思います。







日本で以下のように報じられているものが散見されます。

【毎日新聞の記事より引用】
CDCは実験の結果、医療用や布マスク単体の着用で飛沫(ひまつ)の付着が42~44%防げたのに対し、二重の場合は95%以上の抑止効果があった

「二重の場合は95%以上」は間違いで、

【CDCのレポートより引用】
Results from the first experiment demonstrated that the unknotted medical procedure mask alone blocked 42.0% of the particles from a simulated cough (standard deviation [SD] = 6.70), and the cloth mask alone blocked 44.3% (SD = 14.0). The combination of the cloth mask covering the medical procedure mask (double mask) blocked 92.5% of the cough particles (SD = 1.9).

(後半:The combination of...)医療用マスクを覆うような布マスクの組み合わせ(二重マスク)は咳粒子を92.5% (標準偏差 = 1.9) ブロックした。

と記載されており、95%以上(96.4%)は二重マスクの二人が対面だった場合の値となります。



ですが、私が気になるのはそこではありません。





そもそも「二重マスク」という方法は「マスクはフィルターだから、二つ重ねたら防ぐ効果があがる」という期待が社会にあったことが前提にあります。なので、メディアはこぞって「防ぐ効果のパーセント」に注目しますが、CDCはタイトルを見てもわかるように「二重であること」を主張はしていません。

【CDCの記事タイトル】
Maximizing Fit for Cloth and Medical Procedure Masks to Improve Performance and Reduce SARS-CoV-2 Transmission and Exposure, 2021

布マスクおよび医療用マスクの性能を改良し、SARS-CoV-2の透過と曝露を減らすためのフィット最大化

としているのです。



まず、みんなが医療用マスク(=不織布マスク)に期待するフィルタ効果について考えてみてください。マスクのフィルタ効果は標準検査法として、

  • PFE: Particle Filtration Efficiency(粒子フィルタ効果)
  • BFE: Bacterial Filtration Efficiency (バクテリアフィルタ効果)
  • VFE: Viral Filtration Efficiency(ウイルスフィルタ効果)

のように計測されています。そして一般に、不織布のVFEは99%です。


でも、実験では40%なんですよね。



それはこういうことです。本来なら、1%しか通過しないはずのものが60%も通過しているのは、大半は不織布を通過せず、頬や鼻などのあたりの隙間から入ってきたものだからです。仮に、着用の場合のブロックが40%で不織布の理想的なブロック率が99%だったとすると、

  • フィルタを通して吸った空気: 40.4%
    • うちブロックしたのは40.4 x 0.99 = 40.0%
    • ブロックされなかったのは40.4 x 0.01 = 0.4%
  • フィルタを通らずに吸った空気: 59.6%

という内訳になるわけです(小学校の算数の試験みたいだ・・・)。


一方、布マスクは素材や構造にもよりますが、どう考えてもそれほどブロック率は高くないと思われ、フィルタを通らずに吸った空気がかなり減っていると予想されます。そして、不織布マスクの上に布マスクをつけて隙間を減らしたことで92.5%になった・・・つまり、布マスクの隙間は10%以下と推測できます。



つまり、「フィルタ効果の高い不織布マスクの隙間を覆うために布マスクを使う」という発想は理に適っているわけです。これを理解せず、「二重にすること」だけに重きを置いてしまうと、隙間を塞ごうとする意識が産まれず、ほとんど効果が出ないことになりますので、その点はご注意ください。







そして、もう一つ気にしているのが「酸素濃度」です。今回の実験からわかったように、苦しいと感じている不織布マスクですら、60%は隙間から吸っています。これが、布マスクで覆って二重にすることで92.5%になったということは、隙間からの空気が10%以下になったことを意味します。


Xenomaでやった実験で、通常の不織布でも酸素濃度はかなり低下することがわかっています。



sanso[1]



うちのマスクはいいとして、不織布マスクで20%だった酸素濃度が18%になっているということは2%=2000ppmは二酸化炭素になっているということです。これは人間の思考能力に影響を及ぼすレベルです。


これが、二重マスクつまり隙間なくマスクを着用したとすると、もしかしたら18%を下回る可能性があるんですよね。そうなるとかなり危ないです。



なので、病院や不特定多数の大人数がいる換気の悪い場所など、空間のウイルス濃度が高いかもしれないと懸念される場所では、自衛のために二重マスクかせめて不織布マスクをしっかり着用することが望ましいと私も考えますが、それ以外の日常生活ではそこまで神経質にならない方が反って健康に良いように思うわけす。



私のブログごときで大手メディアがこぞって報道する「二重マスク効果あり」に何ら影響を与えることはできないだろうなと思うのですが、少なくともそもそも実験を実施したCDCの意図すら伝わっていないとすればそれは問題なので、科学コミュニケーションとしても必要なことを発信しようと思っております。



てか、こんなことしなくていい社会に早くなるといいですよね。ワクチンでもまた5回だ6回だと騒いでますが、私はワクチンについてできることは何もないので、自分のできることを精一杯やっていきますです、はい。



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